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第六十一回:事業責任者を立てるタイミング

──「任せること」で、事業はもう一段階成長する

経営を続けていると、必ず直面する判断のひとつが「いつ、誰に、事業を任せるか?」という問いです。
創業間もない頃は、自分がプレイヤーとして最前線に立ち、すべてを把握しながら走ることが当たり前でした。けれど、事業が軌道に乗り、チームが増えていくと、「自分がすべてを把握しきれない」フェーズがやってきます。

このとき、多くの経営者が直面するのが、「責任者を立てたいけど、まだ早いのではないか」「任せて失敗したらどうしよう」という葛藤です。

私自身も、事業の立ち上げをいくつか経験する中で、同じ悩みに何度も向き合ってきました。
結論から申し上げると、「まだ早いかな」と思うくらいのタイミングで責任者を立てることが、組織全体にとっても、本人にとっても良い結果を生むことが多いです。

「任せること」で起こる3つの変化

責任者を立てることで、組織には大きな変化が生まれます。主に次の3つが大きいと感じています。

  1. 判断スピードが上がる
    経営者がすべての判断をしていると、どうしてもボトルネックが生まれます。責任者がいれば、その事業に関する日々の意思決定は現場で完結できるようになり、スピードが格段に上がります。
  2. チームが「自分ごと化」する
    責任者が立つことで、その人を中心としたチームに「当事者意識」が芽生えます。今までは「社長の事業」だったものが、「自分たちの事業」へと意識が変わり、行動の質も変わってきます。
  3. 経営者が“次”に進める
    すべてを自分で見る状態から一歩抜け出すことで、新規事業や組織戦略、採用など“経営者にしかできないこと”に、ようやく集中できるようになります。

「任せる=手放す」ではない

もちろん、任せるからといって「すべてを丸投げする」わけではありません。
責任者が立ったあとも、最初は意思決定のプロセスや数字の追い方など、伴走が必要です。
特に初めて責任を持たせる場合は、「責任者としての型」を一緒に設計し、必要に応じて壁打ちをしたり、会議の設計を変えたりすることで、成功体験を積ませていくことが大切です。

ここで重要なのは、「一度立てたからといって、すべてを成功させてくれるとは限らない」という前提を持つことです。
失敗があっても、その都度振り返り、育てていく覚悟が経営者には求められます。

「プレイヤーが優秀=責任者に向いている」とは限らない

もうひとつ注意しているのは、「成果を出しているプレイヤー=責任者に向いている」と安易に判断しないことです。
現場で成果を出している人が、必ずしもマネジメントやチーム運営に向いているとは限りません。

責任者を選ぶ際は、視座の高さ再現性への意識、そして人を巻き込む力があるかを重視しています。
「自分がやったほうが早い」と思うタイプよりも、「どうすれば他のメンバーもできるようになるか?」を考えられる人に任せたほうが、長期的には組織の成長につながると感じています。

タイミングは、「悩み始めたとき」

最終的に、いつ責任者を立てるべきか?
その答えは、「迷い始めたときが、そのとき」です。

私自身、早すぎると感じたタイミングで任せてみて、何度も「この人でよかった」と思えた経験があります。
逆に、「もう少し様子を見てからにしよう」と慎重になりすぎて、タイミングを逸してしまったこともありました。

完璧な状態になるまで待つのではなく、「今なら間に合う」「今なら育てられる」と信じて一歩踏み出すこと。
それが、経営者としての「任せる力」だと感じています。

 

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