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第五十八回:理念が組織にもたらす力

「理念なんて飾りでしょ」
「現場は忙しくて、そんなきれいごとに付き合っていられない」

そんな声を、かつて私自身も感じていたことがあります。創業間もない頃は、目の前の売上、資金繰り、採用、人間関係…とにかく“今”を乗り切ることで精一杯。理念なんて、余裕のある会社が掲げるものだと思っていました。

しかし、会社の規模が少しずつ大きくなり、社員が増え、任せる領域が増えるにつれて、ある壁にぶつかりました。
「なぜ、うまく意思統一できないのか?」
「なぜ、判断基準が人によってバラバラなのか?」
それはすべて、「軸」がなかったからです。

今回は、そんな経験をふまえながら、経営における“理念”の力と、その実践についてお話ししたいと思います。

理念は、迷ったときの「灯台」になる

理念とは、「私たちは何のためにこの会社をやっているのか」という問いに対する答えです。

日々の業務のなかでは、判断に迷う場面がたくさんあります。
短期的な利益を優先すべきか、お客様の未来を見据えて提案すべきか。
今の人員でなんとか回すか、思い切って採用に踏み切るか。

そんなときに、理念が明確であれば、「私たちらしい選択」ができます。逆に、理念がないと、判断はその場しのぎになり、組織としての一貫性を失ってしまいます。

理念は、企業にとっての“灯台”のようなものです。どんなに波が荒くても、そこに向かって舵を取れる。そんな「進むべき方向」を示してくれるのです。

理念があると、人が育つ

理念の力は、判断基準としての役割だけではありません。実は、理念こそが「人材育成の土台」になります。

なぜなら、人は「意味のある仕事」にこそやりがいを感じるからです。
「この仕事が、誰のためになっているのか」
「自分は、なぜこの仕事をしているのか」

こうした問いに理念が答えを与えてくれます。理念が浸透している組織では、若手社員でも「自分の役割」に誇りを持ち、自ら考えて動くようになります。

これは、目先の業務マニュアルや評価制度だけでは得られない“内発的なモチベーション”です。理念を伝え続けることで、社員の心に“火”が灯り、育つスピードが一気に上がります。

理念は、採用のフィルターにもなる

私が強く実感しているのは、「理念は採用にも効く」ということです。

理念に共感して入社した人は、会社のビジョンに向かって自然と努力できる人です。逆に、条件や待遇だけで入社した人は、価値観がずれると、すぐに不満を抱きやすくなります。

だからこそ、採用の段階から理念をしっかり伝えることが重要です。
「私たちはこういう思いで、こういう未来を目指しています」
「あなたも一緒に、このビジョンを実現しませんか?」

そう伝えられるかどうかで、入社後のミスマッチは大きく変わります。採用に失敗しないためにも、理念を“言葉として”ではなく“行動として”発信していく必要があります。

理念を浸透させるには

とはいえ、理念はただ掲げるだけでは意味がありません。壁に飾ったり、会社案内に書くだけで浸透するものではないのです。

大切なのは、「日常の中で語ること」。
朝礼、会議、1on1、Slackのやりとり、社内報…あらゆる場面で、経営者やリーダーが理念を語ることが必要です。

「なぜこの判断をしたのか」
「なぜこの仕事は大切なのか」
その裏側にある“想い”を伝え続けることで、少しずつ、組織全体に理念が染み込んでいきます。

また、理念に沿った行動を称賛することも効果的です。たとえば、「このプロジェクトの提案は、まさにうちの理念を体現していたね」といった声かけがあると、社員は「なるほど、理念ってこういうことなんだ」と腹落ちします。

終わりに

理念とは、「今をどうするか」ではなく、「未来をどうつくるか」の話です。
そして、その未来に共感した人が集まり、力を合わせるとき、組織は本当に強くなります。

私たちは、単に売上や利益を追いかけているのではありません。
理念という“軸”を持って、その実現のために日々の仕事を積み重ねているのです。

経営者がまず理念を信じ、語り、体現すること。そこからすべてが始まります。
そして、理念の力を信じ続ければ、きっと組織はひとつになり、大きな目標に向かって進んでいけると、私は確信しています。

 

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